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Chapter.11 戦術と戦略
(熟成されたマシン性能とタイヤ戦略 それが勝利の女神を味方につけた)

image1  マイスターカップ第3戦の決勝レースは、誰もが予想しないドラマが展開された。
 観客が息を飲むファーストシーンとなったのはスタート直後の1コーナーまでの区間。予選で唯一の58秒台を出しポールポジションを獲得したジネッタG12の位高選手はスタートに出遅れ、その隙に2番手アートセブンの大山選手がトップを奪う。3番手スタートの我がロータス47GTも加速に伸びなやむ位高選手のジネッタG12に行く手を塞がれ、4番グリッドから猛ダッシュをかけるアート23Bの武蔵野選手に先行を許してしまう。
 1コーナーを抜けた時点での順位は、1位大山選手、2位にはジネッタG12の位高選手までも抜きった武蔵野選手が上り詰め、我がロータス47GTは4位に後退する結果となった。この大判狂わせの幕開けに観衆の興奮はピークに高まり、この先き繰り広げられるであろう激しいレースバトルに誰もが心を踊らせるスタートシーンとなった。
image2  説明するまでもないだろうが、観客を盛り上げたこのスタートシーンは我がチームにとっては苦戦を宣告されたも同然である。とくに思わしくないのは、トップをアート・チームの2台が走りワン・ツー体制を築いていることである。
 レースを知る者になら理解が早いと思うが、ワン・ツー体制は他チームにとって突破しにくい厄介な壁だ。2番手を走るアート23Bの武蔵野選手が後方から迫るライバルを頑固にガードすることで、1位のチームメイト、アートセブンの大山選手を逃がすことができる。よっぽどのミスをしない限り、大山選手は優勝という王者の席を約束されたようなものだ。2台体制のチームが多いF1などでは良くみられる作戦だが、その理想的なレース運びをアート・チームに許してしまったことは、僕に限らず3番手を走るジネッタG12の位高選手にとっても最悪な状況といえるものだ。
 実際にその後のレースはアート・チーム優勢の展開が続いた。2番手を走るアート23Bの武蔵野選手は巧みに3番手の位高選手をブロックしつづけ、防御の手を緩めることはない。ましてアート23Bというマシンはストレートスピードが他を数段上回るポテンシャルのため、コーナーの進入でバトルを仕掛けることも許さず、絵に描いたようなワンツー体制を維持しつづける。アート・チームに独走体制こそ許さないものの、順位の変動もなくレースは4周ほど消化していった。
 トップ集団の最後尾についた僕にとって、もちろんこのレース展開は心境的に穏やかではない。初めから1番手に立っていればそれほど苦労なく後続車を引き離すことができただろうが、3台のマシンが前を走るこれほどの悪条件になってしまうと、優勝を手にするには大胆な勝負にでるしかないからだ。
image3  その作戦とは、タイヤ性能の温存。がむしゃらに先行するマシンを抜くことは考えず、とにかくタイヤをいたわるドライビングに徹する。そして、勝負をかけるのはレースの後半。他のマシンのタイヤ性能が消耗したころ一気にトップへと上り詰めるといった、ある意味ギャンブル的な作戦だった。
 もちろんこの作戦は、かなり有効的と考えていた。というのもこの第3戦ではMC250(プロ)クラスの全車に装着が義務づけられたスリックの性能に理由がある。そのタイヤは、参加者の誰もが初めて経験することになったアドバン製のミディアムコンパウンド・スリック。これまでアドバン製であればコンパウンドの指定はなかったこのレースだが、今回に限り、ソフトコンパウンド・スリックの生産が間に合わないという理由から全車に義務づけられたものだ。がしかし、そのスリックがクセものなのである。
 というのは意外にもグリップ力の落ち込みが激しいことだ。ミディアムコンパウンドは通常、ソフトコンパウンドに比べ絶対的グリップ力は低いものの、その分、夏場の暑い気温でもタレにくい性能を備えている。コンパウンドが充分発熱するまで少し時間は必要だが、温まってからは性能変化がソフトコンパウンドよりも控えめなのが 特徴でもある。ところが今回装着したミディアムコンパウンドは例外。グリップ力の落ち込みが意外に早く始まる特性で、感覚的にはソフトコンパウンドなみに性能の持続が短く、15周のレースでは後半までもたないと予測していた。
image4  実をいえばこの特性は予選のタイムアタックで走行しているときに気付いていた。タイヤを充分に発熱させるために5ラップはさかれ、そして最高グリップが維持されるのは4ラップほどで、あとは性能が激しく低下していく。その特性を予選ですでに確認していたのである。したがって決勝レースではペース配分が勝敗をわけるポイントと考えていた。レースの前半でタイヤ性能を最大に使うか、それとも後半まで温存しておくか・・・。決勝スタート後の状況によってどちらのギャンブルにでるか、あらかじめ心に決めていたのである。
 冒頭で説明したとおり、今回の選択は後者となった。決勝のスタート後は2番手を走るアート23Bの武蔵野選手が、3番手の位高選手を引き離すために激しいドライビングをみせ、一方の1番手アートセブンに乗る大山選手もリードを広げるために積極的にコーナーを攻めていく。その走りはタイヤ性能をレース後半まで温存するものではなく、みるからに3台のマシンは前半に勝負をかけている状況だった。タイヤ性能を温存して、レース後半にバトルをしかけようという僕の作戦は、上記のようなことが理由となっていたわけだ。
 結果をいえばギャンブルは成功である。トップを走る3台は接近戦を繰り返すことからペースダウンに陥り、ロータス47GTにとってはタイヤやマシンに負担をかけず追従することが許された。そして予想が適中したのは、7ラップを迎えたころ。当日の猛暑がタイヤ性能に影響を及ぼしたのか、先行する3台のマシンは意外にも早いタイミングからコーナーでの姿勢に乱れをみせはじめた。コーナー立ち上がりではテールスライドが多く、コーナーの進入でもブレーキポイントが浅目。走りに安定感が薄れていくライバルが明確に見て取れた。
image5  「やったぜ!」。賭けに勝った喜びが、その瞬間、全身をかけぬけた。これぞバトルをしかけるタイミングとばかりに、ロータス47GTのポテンシャルを頂点まで高めた。エンジン&ミッションはこの第3戦に合わせオーバーフォールが施され、いつもに増して走りには一段とパワフルさが蘇っている。タイヤについても、したたかにいたわるドライビングが効果をもたらしてグリップにも充分な余裕をみせている。勝利の女神を味方につけたそんな自信を抱きつつ、反撃が始まったのである。
 勝負をかけるポイントとなったのは、1コーナーに入るときのブレーキング。前を走る3台のマシンは、最終コーナーの出口でテールを大きく滑らせる傾向が目立ち、ストレートにおけるスピードが伸びがないことから、1コーナーの飛び込みをパッシングポイントと定めていた。3番手のジネッタ位高選手をパスしたのもこの場面。進入時にインへ飛び込み、サイドバイサイドの末前に出た。2番手アート23Bの武蔵野選手はダンロップコーナーの進入で押さえ、トップを快走するアートセブンの大山選手は再び1コーナーの飛び込みでかわすことで、ゴールまで残り2周のという土壇場で我がロータス47GTは、第3戦マイスターカップの勝利を獲得することになった。
image6  正直、今回の勝利は価値がある。ミディアムコンパウンドのスリックが義務づけられ、タイヤ性能がイコールコンディションのなか行われたこのレースは、いわばマシン本来のポテンシャルも勝敗にかかわる。タイヤ性能を後半まで温存する作戦もレースを有利に運んだ要素ではあるが、それよりも感心すべきは、夏場のサーキットでも安定したポテンシャルを持続させる47GTの実力を語らずにはいられない。1分を切る59秒台というタイムを決勝レースにおいてコンスタントに叩き出すその数字は、熟成された47GTのポテンシャルを裏付けていた。
 まさに47GTがサーキットの王者であることを実感させる、結果といっていいだろう。

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